どこに行こうかあれこれ迷って、結局、馴染みの和食処に落ち着いた。
店内は、明るく上品な白木造りになっていて、サクラのような若い娘が入っても大して違和感はないだろう。
それにここは客筋も良いから、ガラの悪い酔客に絡まれることもまずない。
「うわぁ、落ち着いてて素敵なところねー。 先生よく来るの?」
物珍しげにきょろきょろと辺りを窺っている。
「おっ、サクラも気に入ってくれたか。 んー、そうだねー。 落ち着いてゆっくり飲みたい時に、よく来るかなぁ・・・」
無理を言って、カウンターではなく奥の座敷に座らせてもらった。
上品な衝立で簡単に間仕切りされたここならば、あまり人目も気にせずに飲み食いできそうだから。
熱いおしぼりで手を拭きながら、一緒にメニューを眺める。
あれも美味しそうだねー。 これも美味しそうだねー。 う〜ん、どうしよう・・・ とメニューを前に、真剣に悩み込んでいるサクラは、
やっぱりどう見ても以前の幼い姿そのままで。
先程の大人びた表情とのギャップに、またしても驚かされた。
―――― 全く、大人なんだか、子供なんだか・・・。
くるくる変わる表情に目が離せない。今日はやけにサクラのことを意識してしまう。
―――― そりゃ、7班にいた頃だって気にはなってたさ。
でもあの頃は、担当上忍として彼女をしっかり守ってやらないと、という気持ちだったはず。
―――― 一体どうしちまったんだ、俺・・・?
「・・・私の顔に何か付いてる?」
「えっ!? あっ、ゴメンゴメン! ちょっと考え事してただけ。 ハ、ハハハ・・・」
どうやら、ボーっとしながらサクラの顔を見つめていたらしい。
必死に笑って誤魔化した。
―――― 何やってるんだよ・・・。 上忍形無しじゃねーか。 あーっダメだダメだ! まずは気を落ち着けて・・・
とり合えず、深呼吸をしてみる。
サクラは、そんなカカシを訝しげに眺めていた。
やっとの事で、店主のお勧めの品など何品か注文を済ませ、改めてサクラと向き合った。
「・・・そういやさ、俺が今日帰ってくるってよく判ったね。 予定とだいぶ違ってたのに」
「へへ! 実はね、昨日師匠がシズネさんと話してたの。 予定が早まって明日あたり帰ってきそうだって。
二人とも大声で話してるから、ぜーんぶ聞こえちゃって・・・。 本当は極秘事項なのにね!」
ホント困った人たちなのよー、とコロコロ笑い続けている。
「・・・あー。 ひょっとしてあの二人、他の人の任務予定とかも、大声で喋ってたりするワケ?」
「えーと・・・、そういえば他の人のはあまり聞かないわね。 最近は先生のばっかりかな」
「へー・・・俺の、ばっかりね・・・」
「おかげで私は、先生の情報がバッチリ解るからラッキーなんだけどv」
ウフフーと笑っているが、普通、気付かないか? ってか、どう考えても、わざと喋ってるって思うだろうが・・・
(裏の裏を読めって散々教えたハズなんだけどなあ・・・)
―――― 全く、賢いんだか鈍いんだか・・・。 でも、なんで俺の予定だけバラすんだ? あの二人。 まさか、ねぇ・・・
そんな訳、ある・・・? ウワーッ! マズイ・・・! ますますサクラの事が気になる・・・!
「・・・先生。 さっきから突然深呼吸したり、頭抱えたり・・・どうしたの?」
「・・・・・・・・・」
(そんな上目遣いに覗き込むなよ! バカヤロー・・・)
やがて何品かの料理と日本酒が運ばれてきた。
サクラは早速箸を動かし、「おいし〜v」を連発させている。
「で、どうなの? 修行の具合は」
酒で満たされた杯をゆっくりと傾けながら尋ねてみた。
「うん、医療忍術の基礎は一通り教わってね。
今は任務中の咄嗟の判断とか、医忍術の複合法とか・・・、応用編を教えてもらってる」
「へえ、もう応用編かぁ・・・」
「普通の術だってそうだけど、教科書通りの知識だけでは到底実戦には不向きでしょ?
どんなタイプの敵が、どういう戦闘を仕掛けてくるか千差万別だし」
「確かにねぇ・・・。 それを一瞬の内に見極められれば、もう十分に立派な忍だ」
「私には、師匠や先生のような経験に基づく知識がほとんどないから、
そこがどうしてもうまくいかなくて・・・いつも怒られてばかりで・・・」
「・・・・・・辛い?」
「・・・うーん。 どうだろう・・・。 辛いって言うより、悔しい、かな?」
「・・・悔しい、か・・・。 サクラらしいな」
「フフッ。 そう? でもね! 私には、夢があるから。 絶対叶えたい夢! そのために頑張らないと」
私の夢はね、また先生と同じチームになって一緒に任務をこなす事なの、とサクラはとても楽しそうに夢を語り始める。
「あっ、それいいねえ。 サクラと一緒だったら俺、張り切って怪我しちゃうぞー」
「えー、張り切って怪我しちゃうの?」
「そー。 で、ガンガン怪我してサクラに付きっ切りで看病してもらう。 うん。 いいねそれ。 絶対そうしよう!」
なにそれー、ちゃんとがんばってよー、と笑い転げるサクラ。
大人になったり、子供になったり。
くるくるくるくる、表情が変わる。
やっぱり、目が離せない。
―――― 一緒のチームか・・・。 いつか本当に組めるといいね。
カカシはゆっくりと杯を傾けながら、いつか一緒に活躍するであろう未来の二人に、そっと乾杯を送った。